アフリカ大陸の言語分布を,国名付きの地図で把握する
アフリカの言語事情は,とても複雑で,とても興味深い。
アフリカ大陸の公用語の分布を,自作の図で示す。
この図に基づき,下記の3グループの言語について論じる。
(1)アフリカ大陸におけるヨーロッパの言語の勢力
もと植民地であったという性質上,公用語として話されている(事になっている)言語は,欧米の言語が主流であるかのように見える。
見える,と言ったのは,実際には単に国が決めた第一言語であって,人々の日常生活の土着言語とは異なるからだ。
だから,実態とは少しずれる。でも,ここでは「見かけ上の公用語」について語る。
特に勢力として大きいのは,
- 英語
- メイン:シエラレオネ,リベリア,ガーナ,ザンビア,ジンバブエ,ナミビア,マラウイ,レソト,ガンビア
- サブ:スーダン,ナイジェリア,カメルーン,ウガンダ,ケニア,ボツワナ共和国,スワジランド王国,南アフリカ共和国
- フランス語
- メイン:セネガル,ギニア,コートジボワール,マリ,ブルキナファソ,ニジェール,ガボン,コンゴ,コンゴ民主共和国,
- サブ:チャド,中央アフリカ共和国,カメルーン,マダガスカル,チュニジア,モーリタニア
である。
この他にも,欧米の言語として
- スペイン語
- 赤道ギニア
- ポルトガル語
- アンゴラ,モザンビーク
が分布に含まれるのは確かなのだが,シェアが少ない。
これら2つのラテン系言語のシェアは,基本的には南アメリカ大陸にゆだねられているとみなそう。
そういうわけで,英語の話者がアフリカで何か新しい事に取り組みたい場合,
- フランス語
という入門的な選択肢が存在する。という事になる。
では,ヨーロッパとか植民地とか外からの影響を抜きにして,
アフリカ自体がもとから持つ言語を考えるとどうなるか。
(2)アフリカの固有言語のうち,ランクインするような主なもの
上述の欧米の言語を除外すると,リストとしては下記のようになる。
- アフリカーンス語
- 南アフリカ共和国
- アラビア語
- メイン:エジプト(方言),リビア,モロッコ
- サブ:アルジェリア,チュニジア,モーリタニア,チャド,スーダン,ソマリア
- スワヒリ語
- メイン:タンザニア
- サブ:ケニア,ウガンダ,コンゴ民主共和国
- その他
- 過多!
アフリカ大陸の最南端,南アフリカ共和国では,アフリカーンス語が話されている。
(これは英語とオランダ語のブレンドのような,母音の連続の多い言語である。)
反対に,南端から北端にフォーカスを移すと,
北アフリカでは圧倒的にアラビア語が行われている。サハラ以北はアラブ圏なのである。
この辺の事情については,下記のエントリを参照。
ガーナの言語「ガー語」を学ぶためのリンク集と,アフリカ諸言語の分布の概観 (ニジェール・コンゴ語族とGa Language)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20120102/p1
なお,「アラビア語がアフリカの土着の言語なのか?」という疑問点については,ここでは論じない。
セム語の流布についてはいろいろあるが,現代史的な観点で見れば,とりあえずアフリカにもともとあった言語として括る事はできる。
※とはいえ,アラビア語について語る際「アフリカ諸語」というカテゴリに含めることはできない。西アジアで話者がきわめて多いためである。アラビア語は国際語のひとつ。
スワヒリ語の存在感も大きい。
もし北アフリカにアラビア語あり,と言わば,東アフリカにスワヒリ語あり。といった感じか。
スワヒリ語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B...
- スワヒリ語(Kiswahili)は、アフリカ東岸部で国を越えて広く使われている言語。ケニア、タンザニア、ウガンダでは公用語
日本人がアフリカに観光で行く事を望む場合,
エジプトのピラミッドを連想する方も多いが,
ケニアとかタンザニアの「動物王国」をイメージする人も多い(特に恐らく小さい子とかは…。)
なので,スワヒリ語も無視できない。
ここまでに考慮した言語における簡単なあいさつを,会話の例文集として以下に掲載する。
「こんにちは」「ありがとう」を掲載。
英語
- Hello.
- Thank you.
フランス語
- Bonjour. ボンジュール
- Merci. メルスィ
スペイン語
- Buenas tardes. ブエナスタルデス
- Gracias. グラシアス
ポルトガル語
- Boa tarde. ボーアタールジ
- Obrigado(/a). オブリガード
アフリカーンス語
- Goeiemiddag. フーイエミダッハ
- Dankie. ダンキー
アラビア語
- assala-m alaykum. アッサラームアライクム
- shukran. シュクラン
スワヒリ語
- Jambo. ジャンボ
- Asante. アサンテ
さて,問題は「その他」である。
アフリカの言語の「その他」は,滅茶苦茶多い。
学びたいと思っても,学習するためのリソースが入手できないほどのマイナーな言語がごまんとある。
そして,この「その他」こそ,アフリカの言語事情を考慮する上での「醍醐味」,楽しさなのである。
(3)アフリカの固有言語のうち,数の面でマイナーなもの
ネイティブ・スピーカーの多い順に,ランキングの一覧形式で列挙する。
言語名と 対象地域 | 言語名(和訳) | 母語 話者数 (100万) | 第二言語 使用者数 (100万) |
---|---|---|---|
Arabic dialects (North Africa and other parts of Africa) | アラビア語の諸方言 | 116 | 30 |
Swahili (East Africa) | スワヒリ語 | 10 | 80 |
Berber (North Africa and West Africa) | ベルベル語 | 35〜55 | 15 |
Hausa (West Africa) | ハウサ語 | 24 | 15 |
Yoruba (West Africa) | ヨルバ語 | 21 | 5 |
Oromo (Horn of Africa) | オロモ語 | 25 | |
Zulu (South Africa) | ズールー語 | 9 | 16 |
Igbo (West Africa) | イボ語 | 20 | 5 |
Afrikaans (South Africa and Namibia) | アフリカーンス語 | 6〜7 | 16 |
Amharic (Horn of Africa) | アムハラ語 | 25 | 70 |
Malagasy (Madagascar) | マダガスカル語 | 21 | |
Somali (Horn of Africa) | ソマリ語 | 14 | 3〜4.5 |
Fula (West Africa) | フラニ語 | 16〜20 | |
Rwanda-Rundi (Rwanda, Burundi) | ルワンダ語,ルンディ語 | 18 | |
Shona (Zimbabwe, Zambia and Mozambique) | ショナ語 | 15 | 2 |
Luo (Sudan, Ethiopia, Chad, Democratic Republic of Congo, Kenya, Uganda, Tanzania) | ルオ語 | 12〜16 | |
Malinke (West Africa) | マリンケ語 | 5 | 9 |
Bambara (West Africa) | バンバラ語 | 3 | 10 |
Ibibio-Efik (Nigeria) | イビビオ語 | 8〜12 | |
Lingala (Democratic Republic of the Congo) | リンガラ語 | 2 | 10 |
Twi (Ghana) | トウィ語 | 8 | 2 |
Chichewa (Zambia, Malawi, Mozambique, Zimbabwe) | チェチェワ語 | 10 | |
Xhosa (South Africa) | コーサ語 | 7 | |
Kongo (Democratic Republic of Congo, Republic of Congo, Angola) | コンゴ語 | 7 | |
Tigrinya (Eritrea and Tigray Region of Ethiopia) | ティグリニャ語 | 7 | 2 |
Gbe (West Africa) | グベ語群 | 8 | |
Tshiluba (Democratic Republic of the Congo) | チルバ語 | 6 | |
Wolof (Senegal) | ウォロフ語 | 3 | 3 |
Gikuyu (Kenya) | キクユ語 | 5 | |
Moore (West Africa) | モレ語 | 5 | |
Sotho (South Africa) | ソト語 | 5 | |
Luhya (Kenya) | ルヒヤ語 | 4 | |
Tswana (Botswana, South Africa, Zimbabwe, Namibia) | ツワナ語 | 4 | |
Kanuri (West Africa) | カヌリ語 | 4 | |
Umbundu (Angola) | ウンブンドゥ語 | 4 | |
Northern Sotho (South Africa) | 北ソト語 | 4 |
出典:
Languages_of_Africa#Demographics
http://en.wikipedia.org/wiki/Language...
- 2005年の情報。アフリカ全体で8億9千万人
- アフリカ各国は,独立時に植民地の言語を公用語としてひとつ選んで,公式の教育などに利用し始めた
- しかし近年になって,各国ともに自国のオリジナルの言語の保存を努力している
これらの言語の個別の扱いについては,またいつか別の機会に掲載したい。
ていうか,語り尽くすのは無理なので…。
補足
冒頭のアフリカ大陸の地図画像の作成のために,下記のリソースを利用させて頂いた。
ご提供下さったご厚意に,ここで謝意を表したい。
File:Official languages in Africa.svg
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Off...
- wikipediaの添付画像のライセンスや著作権については,右のリンクを参照のこと。 http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B9
アフリカ大陸のダウンロード【白地図専門店】
http://www.freemap.jp/download.php?a=...
関連する記事:
アラビア文字の覚え方 (一覧表PDFと解説)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20090607/p1
ガーナの言語「ガー語」を学ぶためのリンク集と,アフリカ諸言語の分布の概観 (ニジェール・コンゴ語族とGa Language)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20120102/p1
マダガスカル語の入門用リンク集 (辞書や挨拶,基本文法など)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20110521/p1