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頭の中で「想像上のストレス」と闘うのをやめろ。 ― SEの視点での書評:「クヨクヨしなくていいんだよ! うつを克服する7つの鍵」

クヨクヨしなくていいんだよ!―「うつ」を克服する7つの鍵

クヨクヨしなくていいんだよ!―「うつ」を克服する7つの鍵

「クヨクヨしなくていいんだよ! うつを克服する7つの鍵」,花風社,2002。

本のオビには『「うつ」と「不安」の克服法』とある。



ネガティブ思考で,なんでも物事を暗く考える人がいる。

また,とにかく白黒つけたがって,いつも物事を悪く決めつける人もいる。

そういう人は,仕事の激務に追われているうちにストレスがたまり,

うつ病になるケースが多い。



どうすれば,ネガティブ思考を捨てられるのか?

そもそも,ネガティブ思考の正体とは何なのか?そうなるメカニズムは?


どういう習慣を持てば,

不安や取り越し苦労・心配症のない人格に変われるのか。


この本はヒントを与える。

概要

キーワード

  • 「想像上の不安」,「頭の中の世界」
  • コントロール意識
  • 不安な子供
  • 「チャンネルの切り替え」
  • 「セルフ・トーク」

(1)全体のまとめ

     過去,幼いころの失敗体験など
     (「不安な子ども」の形成)
          ↓
          ↓
   もう二度と恥ずかしい思いをしたくない,
    完璧でなければならないという思い
        (完璧主義)
          ↓
          ↓
   「コントロール意識」の異常な強化→→→↓
          ↓           ↓
          ↓           ↓
    想像の中で,架空のストレスを    ↓
     コントロールしようとする     ↓
       (取り越し苦労。    白黒つけたがり思考
     「不安な子ども」が騒ぐ)     ↓
          ↓         黒ばかりで悲観
   うまくコントロールできないので
     エネルギーを使い果たす
          ↓
          ↓
         うつ状態,
    コントロールしなくて済むように逃避

(2)「うつ」と「不安」の対比


不安が事前。それでエネルギーを使い果たして,うつになる。

両者ともコントロール意識が動機。


違い:

  • 不安:エネルギー過剰。
    • 問題を先取りし,衝突の痛みに備えようとしている。
    • 心を激しく騒がせる事によって事態をコントロールしようとする。
    • 想像上の未来に引っ張られる。
  • うつ:エネルギー不足。
    • 問題から離れて事態をコントロールしようとする。
    • 想像上の過去に引きずられる。


共通点:

  • 「自分はだめだ」という思い込み
  • 何とかして,自分を害から守ろうとしてもがいている試み

連動:

  • 想像上のストレスを,想像の中でコントロールしようとするから不安になる。
  • 結局それができないので,自信をなくしてうつになる。


想像上のコントロールがうまくゆかないので,

想像上のストレスでいつまでも苦しむことになる。


この苦しい状態を終わらせるには,頭の中の世界から抜け出して

現実を見る事が大切。


典型的な「想像上のストレス」には、例えば下記のようなものがある。

  • あの人は私を悪く思っているに違いない。きっとそうだ。絶対嫌われて、嫌に思われているに決まっている…。
  • 自分が努力している事は、きっと失敗する。うまくゆかないに違いない。自分の将来は暗いに決まっている…。

頭の中の世界で、空想上の仮定に基づいて、いつまでも苦しみ続ける。


空想なので、当然だれも止められないし、

そもそも起きてもいない事なので、解決することもありえない。


こうして、うつになるのである。

(3)「コントロール意識」が不安とうつを生むのはなぜか

コントロール意識は,支配感や支配欲とも言い換えられる。

強過ぎると「コントロールフリーク」。



繰り返し同じことを考える理由:

  • 自分が信頼できず,消極的な事を強迫的に考え続ける。
    • そうすることによって,自分にコントロール力があると感じたい。


ネガティブ思考に陥る理由:

  • 白・黒のうち「黒だ。」と決めつける事によって,コントロールできている気分を味わおうとしている。


要は,0か1かはっきりさせたいデジタル思考だと,

「完全にゼロ」(「全くダメ」)と決めつけたくなる。


そして,どうせだめなんだと決めつける事によって

「自分はこの事態をコントロールできた」という自己満足に陥る


本当は,やってみなければわからないというのに。

これを,「白黒つけたがり思考」と呼ぶ。


引用(p128):


人生には白黒が付けられない。
人生のグレーな選択肢を拒めば,幅広い可能性を丸ごと捨てる事になる。
 
不安感のある人は「正しいかどうか」よりも
「コントロールできていると感じられるかどうか」にこだわる。
 
ネガティブな形であっても,決着がつけばそれでいい。
「結局そういうこと,私はダメ人間なんだ。」


コントロール意識が強過ぎると,どういう状況になるか:

  • 自分の考える能力だけに頼ろうとする。
  • 「〜したい」は正常。しかし「〜せねば」は強迫的。


コントロール意識が強過ぎると,

自分の頭の中だけで,

「〜せねば」「〜違いない」という思考がいっぱいになる。


そして,100%考えている通りに物事は運ばないから,不安が生まれる。

そして前項の通り,不安がうつを生む。



引用(p122):


「べき」思考は罪の意識と敗北感を呼び起こす。
この考え方は今ある自分を攻撃し,不安とうつを生む。
 
自分を向上させられるはずだというのは間違いではないが,
向上「すべき」だと考えるのは,今の自分をダメだと言っている事になる・・・
 
今の自分には何か足りない,これをして,あれをしてはじめてまともになるのだと。


コントロール意識が他の問題を連鎖させる可能性:

  • コントロールしたい
  • →実際には完全にはできない
  • →疲れる
  • →コントロールするのが嫌になる
  • →アルコールや薬物などに逃避。コントロールしなくて済む状況に身をゆだねるようになる。

引用(p144)


アルコールやドラッグはコントロール意識の強い人にとってはとりわけ危険である。
 
コントロール意識にとらわれた人にとっては,
「何も気に掛けずに済む」ということ以上に心ひかれるものはないからだ。
 
「自由になれたらなんと楽だろう・・・。」

(4)うつとの闘い方:セルフトーク

うつ病は,再発率が8割。考え方を変えない限りは・・・。

投薬とセラピーを併用して対処するとよい。


片方だけではだめ。

投薬によって生化学的なバランスは修復される。

セラピー(or カウンセリング)により,思考法が改善される。



で,セラピーの一種として勧めているのが,セルフ・トーク。


セルフ・トークの3ステップ

  • (ステップ1)頭の中の「不安な子ども」の声を識別する。
    • 場合によっては,その理由も考え日記などに記す。
  • (ステップ2)チャンネルを変える。
  • (ステップ3)頭の中に,意図的に健全な声を流す。ペップ・トーク。


ここでいう「不安な子ども」とは,

自分の頭の中で「どうせ〜だよ」みたいにしつこくささやく別人格を指す。

あえて別人格とみなす。


子供がダダをこねるように,自分の思考の一部は,

心を騒がしくする事で事態を無理やりコントロールしようとするのである。


引用(p159〜160)


(小さいころ持っていた)弱みの種が芽生えて,
やがて大人になったあなたを形作ったのだ。
 
ビデオテープの映像が永久に記録されているように,
その映像はあなたの心にも永久に刷り込まれている。
 
心の中の「子ども」の刷り込みと一緒に,
誤解,歪曲,幼稚な思考が
やがて不安感という習慣を作り上げたのだ。
 
あなたの中の「不安な子ども」が思考を支配するとき,あなたは苦しむ。

まずは,そいつの声を正確に聞きとる。

できれば,書きとめて日記にする。


そして,その別人格にニックネームを付けてもよい。

例えば・・・

  • 元気や自信がない理由は,失敗時に人目が気になるから。
    • →人目が気になって何もできない理由は,人からよく思われたい,良く見せて目立ちたいから。
    • →「目立ちたがり屋の太郎君」のようなニックネームをつけて,自分の中のその人格を識別する。

次に,その人格を抹殺する・・・。

ラジオのチャンネルを変えるように,もうその声を聞かないことする。



そして,健全で前向きな声を,自分の頭の中で流すようにする。

  • 「いま悲鳴を上げてるのは,自分自身ではなく,自分の中の『不安な子供』だ。黙らせよう。」
  • 「『不安な子ども』がいくら騒ごうが,自分にはできる。自信をもってよい。がんばろう」

のように。


「自分にはできる」という考え方のせりふを,

自分に向かって言い聞かせるのである。


何なら,自分の長所をリストアップしておいて,

そこから発言内容をあらかじめ決めておいてもよい。




悲観的なコントロール意識(決め付け)を捨て,

そのチャンネルを切り替えて,

現実を前向きにとらえる事について:(p77)


・・・彼女は自分が環境の犠牲になろうとしていたのだと悟った。
 
自分にはどうしようもないというあきらめと,
自分の欲求を追い求める事に対する不安感に降参してしまっていたのだ。
 
いったん降参してしまえば,うつに陥るのはほぼ免れられない。
 
彼女はその状態からもう逃れられないと思いこみ,
自分には「抜け出す」という選択もできるんだとは気付かずにいた。

感想

ネット上にはこの本の書評は存在しないようだ。


発見が色々と。

  • 自分の不安感は,想像上のものにすぎない。有りもしない事は,悩むだけ無駄だ。問題がそもそも実在しないということは,解決することも当然あり得ないのだし。
  • ネガティブで後ろ向きな思考とか,リピート再生される思考は,決めつけやコントロール意識から来ていたのか。決めつけをやめて可能性を探し続ければ,生活が明るくなる。
  • 日記の有用性。自分の「不安な子ども」の声を日記上にいったんダンプして,それらを一つずつ潰してゆき,健全な考え方に変換してゆく。


今後,ネガティブ思考の人に出会ったら,

その考え方の根底を見抜く事ができる。


また何らかの原因でメンタル面の不調が発生したメンバに対して,

その人の「不安な子ども」はどんな事を叫びたてるのか?

という切り口で援助することもできる。


書籍自体は,読みやすいが,まとまりがない。

なので,役立てるためには

要点を自分で発掘してまとめ上げなければならない。


とはいえ,自己の思考法について新鮮な事柄を気付かせてくれるので,

有用な本だと言える。