Excel VBAのマクロを,複数のブックから利用する方法 (標準モジュールをブックの外部で管理して,共通ライブラリとして読み込み)
通常,Excel VBAのコードは, .xls ファイル(=ブック)の内部に
保存されてしまう。
これだと
- 複数のブックで共通のコードを利用できないし,
- マクロの修正があると,全ブックを修正しなければならないし,
- ソースコードをテキスト形式で管理できない(SVNやGitで差分を読みづらい)
という不便さがある。
これでは,VBAを使ってスムーズな開発プロジェクトを行なうのは難しい。
下記は,それを解決する方法。
- テキスト形式で,VBAのモジュールをブックの外部に保管して共有し,
- どのモジュールをブックに読み込ませるか?という情報(モジュールの依存関係)も外部の設定ファイルで管理し,
- ブックを開いたら自動的に必要なモジュールが外部から読み込まれる
というふうにする。
ここでは
- (1)簡易な方法(非テキスト形式)
- (2)便利な方法(テキスト形式)
の2つの方法を掲載するので,お好みで好きなほうを選んでください。
(1)原始的な方法:自動的に他ブックを開く
コードの存在するブックを開いて,そのブックのマクロを呼び出して,終わったら閉じる。
まず,共通コードをsrc.xlsに書く。
ふつうにVisual Basic Editor上でマクロを書く必要がある。
src.xls の標準モジュールとして「HogeModule」内に:
Sub fuga() MsgBox "fuga" End Sub Function hello(x) hello = "Hello, " & x & "!" End Function
※VBEの画面左側に「標準モジュール」が無い場合は,右クリック>挿入 で作っておけばよい。
そして,それを呼び出す側のブック。
caller.xls のSheet1
Sub call_fuga() Workbooks.Open Filename:="D:\temp\src.xls", ReadOnly:=True Application.Run "'src.xls'!HogeModule.fuga" Windows("src.xls").Close End Sub Sub call_hello() Workbooks.Open Filename:="D:\temp\src.xls", ReadOnly:=True s = Application.Run("'src.xls'!HogeModule.hello", "World") MsgBox s Windows("src.xls").Close End Sub ' 注:ブック名はシングルクオートで囲っている。 ' ブック名に丸括弧等の特殊文字が含まれる時のために必要。
これでsrc.xlsに書いてあるマクロのロジックを,外部ファイルcaller.xlsから呼び出せる。
caller.xlsを開くと,Alt + F8でcall_fugaとかcall_helloを呼び出せる。
呼び出し側のブックの数がいくら増えたとしても,マクロの変更箇所は1つで済む。
しかし欠点として,
- 開いたら閉じなければならない(開くだけで済ませられない)
- 開いてから閉じるまでに間がある(利用中はずっと開いていなければならない)
- 呼び出し方が冗長(あくまで,外部にあるものを外部にあるまま呼び出しているに過ぎない。自身のオブジェクトとして取り込んではいない。includeではない。)
- コードはExcelの内部で管理されてしまう(コードをテキスト形式で管理できない)
などがある。
かわりに,もっと良い方法がある。 以下で紹介しよう。
(2)より良い方法:モジュールをテキストファイルからロードする方法
呼び出したいモジュールとして,下記のような2つがあるとしよう。
まずは,これらをそれぞれ自由にエディタ(メモ帳とか)で書いて,ファイルとして保存。
HogeModule.bas
' hogeのためのモジュール。 Attribute VB_Name = "HogeModule" Sub hoge() MsgBox "hoge" End Sub Function hello(x) hello = "Hello, " & x & "!" End Function
FugaModule.bas
' fugaのためのモジュール。 Attribute VB_Name = "FugaModule" Sub fuga() MsgBox "fuga" End Sub
そして,これらの2つを呼び出したいという旨,設定ファイルに記述する。
下記のように。
libdef.txt
.\HogeModule.bas .\FugaModule.bas
次に,呼び出したい側のエクセルファイルに,モジュールを自動的に読み込むという設定を書く。
事前に下記の設定を行なっておくこと。
(Excel2003の場合)
ツール>マクロ>セキュリティ>信頼できる発行元>Visual Basic プロジェクトへのアクセスを信頼する をオン
(Excel2007の場合)
リボンの「開発」タブ>マクロのセキュリティ>VBAプロジェクトオブジェクトモデルへのアクセスを信頼する
http://support.microsoft.com/kb/28283...
※「プログラミングによるVisual Basicプロジェクトへのアクセスは信頼性に欠けます」というエラーメッセージが出ないようになる。
ここでは,呼び出し側のファイルをcaller.xlsとする。
「ブックを開いたときに自動的に〜〜」という処理は ThisWorkbook の中に書く。
下記の内容をコピペ。
caller.xls のThisWorkbook
' ワークブックを開く時のイベント Private Sub Workbook_Open() ' txtに書いてある外部ライブラリを読み込み load_from_conf ".\libdef.txt" End Sub ' -------------------- モジュール読み込みに関する関数 -------------------- ' 設定ファイルに書いてある外部ライブラリを読み込みます。 Sub load_from_conf(conf_path) ' 全モジュールを削除 clear_modules ' 絶対パスに変換 conf_path = abs_path(conf_path) If Dir(conf_path) = "" Then MsgBox "外部ライブラリ定義" & conf_path & "が存在しません。" Exit Sub End If ' 読み取り fp = FreeFile Open conf_path For Input As #fp Do Until EOF(fp) ' 1行ずつ Line Input #fp, temp_str If Len(temp_str) > 0 Then module_path = abs_path(temp_str) If Dir(module_path) = "" Then ' エラー MsgBox "モジュール" & module_path & "は存在しません。" Exit Do Else ' モジュールとして取り込み include module_path End If End If Loop Close #fp ThisWorkbook.Save End Sub ' あるモジュールを外部から読み込みます。 ' パスが.で始まる場合は,相対パスと解釈されます。 Sub include(file_path) ' 絶対パスに変換 file_path = abs_path(file_path) ' 標準モジュールとして登録 ThisWorkbook.VBProject.VBComponents.Import file_path End Sub ' 全モジュールを初期化します。 Private Sub clear_modules() For Each component In ThisWorkbook.VBProject.VBComponents If component.Type = 1 Then ' この標準モジュールを削除 ThisWorkbook.VBProject.VBComponents.Remove component End If Next component End Sub ' ファイルパスを絶対パスに変換します。 Function abs_path(file_path) ' 絶対パスに変換 If Left(file_path, 1) = "." Then file_path = ThisWorkbook.Path & Mid(file_path, 2, Len(file_path) - 1) End If abs_path = file_path End Function
コード概説:
- ワークブックを開くときのイベント http://www.asahi-net.or.jp/~ef2o-inue/vba_k/sub04_130_04.html
- 標準モジュールのインポートをVBAで自動化する方法 http://www.seiji-tsubosaki.net/ExcelTech/ExcelProfessionalEngineerTechnic/Contents_08.htm
- 標準モジュールを削除する方法 http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1799764.html
これで完了だ。
caller.xlsを開くと,HogeModule.hoge() も FugaModule.fuga() も実行可能な状態になっている。
VBAのコードを「ブック間で共有」することのメリット
こうすることのメリットはたくさんある。
- 複数のブックで,常に共通のマクロを利用できる。マクロに変更があっても,たった1箇所の修正ですむ。
- 外部の設定ファイルを書き換えるだけで,全モジュールの依存関係を制御できる(一種のDI*1)。
- モジュールの内容がテキスト形式で管理されるので,Subversionなどのバージョン管理ツールで差分が出しやすい。
もちろん,外部にテキスト形式として保存されてはいても,VBEを利用できる。
ブックを開いた際に自動的に読み込まれたマクロをVBE上で閲覧+編集したら,編集結果をbasファイルとして再度エクスポートすればよいのだ。
また,ブックごとに利用モジュールを変えたい場合は,ブックごとに,読み込む設定ファイル( libdef.txt )の名前を変えればよい。
補足
(2)の方法だと,caller.xls内でマクロを編集しても,それだけだと次にブックを開きなおした時に全部クリアされてしまう。
あくまでコードは外部に存在するので,その点を注意。
また,外部のコードが更新されても,ブックを開きなおすまではコードの更新が反映されない。(リアルタイムでない)
それを煩わしく感じる場合もあるかもしれない。
その場合は,全モジュールをその場でリロードするために,マクロで load_from_conf ".\libdef.txt" を実行すればよいだろう。
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