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楔形文字を使った古代言語の概観と入門 (アッカド語・アッシリア学の第一歩)

言語 アッカド語 ペルシャ語


言語の歴史を紐解くと,多くの古代語が「楔形(くさびがた)文字」を使っていた事に
気づく。

そして,その原文テキストの膨大な量と,未解読の資料の多さに驚く。


※「くさび」とは,V字型で隙間に打ち込むための道具。

楔形文字
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%9...

  • 元は絵文字としての性格が強かったが、長期間繰り返し使われるうちに、次第に単純化・抽象化
  • この文字を使用した文明・文化の研究は、一般に「アッシリア学」と呼ばれる


楔形文字で名前を書いてみよう
http://www.geocities.jp/sun33_soleil/...

  • かな一覧表として楔形文字との対応表が掲載


ここでは,楔形文字を使っていた主な言語として,下記の言語を紹介する。

一部前後するが,だいたい年代順。

系統不明

  • (1)シュメール語
  • (2)エラム語

セム語族

  • (3)アッカド語
  • (4)ウガリト語

インド・ヨーロッパ語族

  • (5)楔形文字ヒッタイト語
  • (6)古代ペルシャ語


目次:

(1)シュメール語

メソポタミア(バビロニア)の南部地方のことを,「シュメール」またはカルデアと呼ぶ。

それに対し,バビロニア北部のことを「アッカド」と呼ぶ歴史家が多い。


シュメール語は,紀元前2000年ごろに古代メソポタミアで話されていた言語。

絵文字では不便なので楔形文字が使われるようになり,粘土板の上に情報が記録された。


シュメール語の著作としては,ウルクという都市の王ギルガメシュを主人公とした

ギルガメシュ叙事詩」(The Epic of Gilgamish)が有名。

内容は洪水物語などを含む。


ウルクとは,古代バビロニアのシナルの地のひとつであり,

現在ではエレク(ワルカ)として知られている。

「ウル」という都市とは別物である。


さすが最古の文字言語のひとつと言われるだけあって,

シュメール語の系統・所属は不明

シュメール人はセム系の人種ではなかったので,セム語とも関連がない。


紀元前19世紀ごろには,アッカド語に押されてシュメール語は話されなくなった。

アッカド語にはシュメール語からの借用語が多い。

シュメール語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B...

  • 時代が進むにつれアッカド語に押され、紀元前2000年頃から200年あまりの間に口語としては死語となった
  • しかし、古代メソポタミア社会において宗教語、学者語として長く受け継がれ、ヨーロッパにおけるラテン語やインドにおけるサンスクリット語に類似した地位を与えられた


ギルガメシュ叙事詩は,もともとシュメール語でシュメール人が書いたものだ。

しかしそれがアッカド人によってアッカド語に翻訳され,内容も改変され,その結果有名な文学となった。

ギルガメシュ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%...

  • ギルガメシュ王は死後間もなく神格化され数多くの神話、叙事詩に登場する。そして『ギルガメシュ叙事詩』と呼ばれる一つの説話へとまとめられていった。これは今日最も知られているシュメール文学である。
    • シュメール語での名はビルガメシュであり、神であることを示す限定詞が付けられていた。
  • このシュメール語版がアッカド語に翻訳され、現存する『ギルガメシュ叙事詩』となった。
    • 時代ごとに大幅な改変が成された


ギルガメッシュ叙事詩
http://www.y-history.net/appendix/wh0...

  • ウルク第1王朝時代の実在の王ギルガメシュを主人公に、シュメール語で物語られていた伝承が、その後のメソポタミアのバビロニア、アッシリア、ヒッタイトなどの諸民族のことばに翻訳され、楔形文字で粘土板に書かれたものが残されている。


ギルガメッシュ叙事詩を改めて読み比べしたらバビロニア語版だけおかしい気がして来た 現在位置を確認します。/ウェブリブログ
http://55096962.at.webry.info/201510/article_11.html

  • 原作はシュメール人。しかしおそらく要素を付け足して完成させたのはアッカド人+バビロニア人


楔形文字の原文ではないものの,ギルガメシュ叙事詩の石板・粘土板を,字義通りに英語に直訳した学術的な資料が下記のサイトから閲覧できる。

The Epic of Gilgamish Index
http://www.sacred-texts.com/ane/eog/

  • This is one of the first essentially complete academic translations of the epic of Gilgamesh.


シュメール語の文法の入門サイトとしては,下記のページが存在する。

しかし残念ながら,古代語ゆえに,この言語の学習は宗教的な単語を使ったものに相当限定されてしまうようだ。

Sumerian language
http://en.wikipedia.org/wiki/Sumerian...


シュメール語事始
http://act9.jp/fan/report/ai/ryuh/Sum...

(2)エラム語

シュメール語と同じく,やはり系統不明の言語。

エラム語は,古代オリエントで栄えたエラムという国家で使われた。

スサという都市は,一時期エラムの首都であったが,後にペルシャ帝国の王都になった。


エラム語は,楔形文字を使って記録された。

史料としては,ベヒストゥン碑文などがある。

(ベスヒトゥンと言い間違えやすいので注意。)

エラム語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • 古代のエラム帝国で使われていた系統不明の言語であり、現在は死語
  • 膠着語


ベヒストゥン碑文 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%B3%E7%A2%91%E6%96%87

  • ベヒストゥン碑文 (英: The Behistun Inscription, ペルシア語: بیستون Bīsotūn)は、アケメネス朝ペルシアの王ダレイオス1世が、自らの即位の経緯とその正当性を主張する文章とレリーフを刻んだ巨大な磨崖碑。イラン西部のケルマーンシャー州にある。
  • 同じ内容の長文のテキストが、エラム語、古代ペルシア語、アッカド語(新バビロニア語)という3つの異なった言語で書かれている。
    • 当初はエラム語の碑文のみであったが、壁画像を追加する段階でアッカド語と古代ペルシア語の碑文も増補されたと見られている。

(3)アッカド語

アッカド語は,セム語族に属する。

その南方方言をバビロニア語,北方方言をアッシリア語と呼ぶ。

前者は母音の連続を短縮し,後者は短縮しない。



アッカド語の著作としては「ハンムラビ法典」が有名。

原文(ラテン文字に翻字)と英訳を下記のサイトで読める。

Hammurabi, The Code of Hammurabi
http://oll.libertyfund.org/index.php?...


古アッシリア〜中アッシリア時代,

つまりアッシリア帝国が大国として君臨するころまでの間,

アッカド語はメソポタミアの国際共通語であった。



しかしアッシリア帝国時代にはアラム語の勢力が大きくなり,

アッカド語は使われなくなり,国際共通語の地位はアラム語に取って代わられた。

(アラム語は基本的にアラム文字で筆記されるため,楔形文字を利用しない。
ただし,まれにアラム語の文章が楔形文字で記述されたケースもあったようだが。)



そして,そののち西暦前7世紀にはアッシリア帝国が滅亡。

後に続くバビロニア帝国およびペルシャ帝国の統治期間中も,アラム語が共通語のままであった。

※バビロニア帝国の支配中の公用語(つまりアラム語)は,「バビロニア語」とは呼ばれない点に注意。
先で述べた通り,バビロニア語とはアッカド語の一方言なのである。


こうして,楔形文字は,世界の口語の主流から姿を消していった。

しかしアッカド語は,後々に至るまで文語として利用され続けた。

アッカド語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • 古代メソポタミア(=イラク近辺)で、主にアッシリア人やバビロニア人に話されていた言語。当時は国際共通語でもあった
  • アフロ・アジア語族セム語派に分類される


アッシリア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • 中アッシリア時代
    • 小規模勢力に過ぎなかったアッシリアが、有力国として台頭する
    • 中アッシリア時代の後半にはアラム人の侵入によって国内が混乱しアッシリアは混乱期に入った
  • 新アッシリア時代
    • ティグラト・ピレセル3世やアシュルバニパルといった有名な王の時代
    • 紀元前千年紀前半、いわゆる新アッシリア王国と呼ばれた時代にオリエント全域を征圧・支配する大帝国を打ち立てた
    • この時代のアッシリア政治史における重要案件はバビロニア問題であった。ティグラト・ピレセル3世がバビロニアを完全征服して以降も、事あるごとにバビロニアでは反乱が発生


アラム語の入門・学習用リンク集 (Aramaic Language)
http://language-and-engineering.hatenablog.jp/entry/20110129/p1

  • メソポタミアにおける,国際共通語の遷移


アッカド語の入門は,下記ページがお勧め。

楔形文字解読講座
http://www.geocities.jp/sun33_soleil/...

(4)ウガリット語

地中海東岸のウガリトという都市国家で話されていた,ウガリト語(ウガリット語)。

セム語の一つで,今は死語。

ウガリット語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • やや簡略化された楔形文字の一種で表記
  • ウガリットの遺跡から出土した紀元前14世紀〜紀元前13世紀頃の粘土板文書に見られる
  • ヘブライ語との関係
    • 類似点:女性語尾-t [-(a)t],mlk [malku]「王」のような名詞類。動詞も3子音の語根から成る
    • 相違点:冠詞が無い,格(主格、属格、目的格)の区別があるなど


ウガリット文字
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • ほぼ完全に表音文字
  • 大幅に簡略化された楔形文字

(5)楔形文字ヒッタイト語

トルコ北部の「ハトゥシャ」という首都を中心に栄えたヒッタイト帝国で,

楔形文字を使った「ヒッタイト語」が話されていた。

※なお,安易に「ヒッタイト」という名称が付けられた事が混乱や誤解を招いている。


Old Testament中のヘト人が話したかもしれない「ハッティ」という言語名・民族名と,

上の「ハトゥシャ」という都市名の発音が似ていると考えた学者が,

両者を結びつけようとした。


その結果,トルコにあった帝国の名称は「ヒッタイト帝国」と命名され,

そこで発掘された碑文中の言語も「ヒッタイト語」と呼ぶ事になり,

あとから名称を訂正できなくなったのである。



ヒッタイト語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9...

  • 紀元前1600年から1100年の頃使われたヒッタイト帝国の公用語
  • ヒッタイト語という用語には問題がある
  • ヒッタイトあるいはハットゥサというのはヒッタイト人が支配する前からいた原住民が称した名と考えられる。その言語はやはりヒッタイトの文書の中に用いられているが、ヒッタイト語とは全く別系統であり、区別するためにハッティ語(原ハッティ語)などと呼ばれる
  • ヒッタイト人の支配層の先祖は古代のいずれかの時期に黒海東岸ないし北岸方面から南下しアナトリアで非印欧語族の原住民(ハッティ人等々)を同化吸収してヒッタイト社会を形成したというのが通説


この(トルコの)「ヒッタイト語」の分類は,インド・ヨーロッパ語族のアナトリア語派

アナトリアとは,小アジアつまりトルコがある地域のこと。

ヒッタイト語が属するアナトリア語派には,他にリュディア語,ピシデア語などがある。


紀元前4世紀のアレクサンドロス大王による征服でヘレニズムに席巻され,

ヒッタイト語・リュディア語等を含むアナトリア語派は紀元前に消滅した。

アナトリア語派
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • ヒッタイト語の資料が多く最もよく研究されている
  • ヒッタイトの先住民が話していた原ハッティ語は、別系統


アナトリア半島
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • アジア大陸最西部で西アジアの一部をなす地域である。現在はトルコ共和国のアジア部分
  • 北は黒海、北西はマルマラ海、西はエーゲ海、南西は地中海に面す


Lydian language
http://en.wikipedia.org/wiki/Lydian_l...

  • Lydian was an Indo-European language spoken in the region of Lydia in western Anatolia (present-day Turkey). It belongs to the Anatolian group of the Indo-European language family.


Pisidic Language
http://indoeuro.bizland.com/tree/anat...

  • they became more famous due to the corpus of inscriptions (about 25 at all) found in Southern Asia Minor and written in a special language.
  • All inscriptions are too short and of the same structure, so the identification of the language is quite hard, but still it is believed to be one of the Anatolian languages

(6)古代ペルシャ語

ペルシャ語は,現代でこそ確かにアラビア文字を使っていて,

まるでアラビア語に近い言語であるかのように誤解される。


しかし,アラブに征服される前,

もともと古ペルシャ語は楔形文字で記録されていた。アラビア文字ではない。

語族もインド・ヨーロッパ語族に属し,セム語族のアラビア語とは全く異なる。



古代ペルシャ語は,あまり目立つ存在ではない,かもしれない。

ペルシャ帝国がオリエントを統一した時代,紀元前6世紀ごろには,

既に国際共通語としてアラム語がまかり通っていたからだ。



したがって,ペルシャ帝国が栄えた事は事実で,

同時に古ペルシャ語が楔形文字で書かれていたことも事実なのであるが,

それは,楔形文字を使った古ペルシャ語が国際語として君臨することを意味するものではなかった。


そのような時代は,口語としてのアッカド語の終焉と共に過ぎ去ってしまったのである。

Old Persian language
http://en.wikipedia.org/wiki/Old_Pers...

  • It is an Iranian language and as such a member of the Indo-Iranian branch of the Indo-European language family.
  • The oldest known text written in Old Persian is from the Behistun Inscriptions.


ペルシア語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9...

  • 古代ペルシア語 … 古代ペルシア帝国(アケメネス朝)の公用語の一つ。楔形文字を用いた。
  • 現在のペルシア語にはアラビア語からの借用語が非常に多く、その形態は古代ペルシア語とはかなりの断絶がある。


ペルシア帝国
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9...

  • 古代ペルシア帝国:アケメネス朝は、キュロス2世(キュロス大王)により、メディア王国、リディア王国、新バビロニア王国を滅ぼし、新バビロニア王国により移住させられたユダヤ人を解放し、バビロン捕囚を終焉させた
  • キュロス大王の息子カンビュセス2世により、エジプトを併合して、古代オリエント世界を統一


なお,ペルシャ帝国と言えばキュロス王の円筒碑文が有名だ。


あの円筒碑文は楔形文字で書かれている。

ペルシャ帝国だから古代ペルシャ語で書いたのでは?と思うかもしれないが,

そうではなく,なんとアッカド語で書かれている。


アッカド語は,口語としては死んだとは言え,公用の文語としてこの時代まで生き残っていたのだ。

そして対称的に,この時代の古ペルシャ語の非公式性も伺える。

Cyrus Cylinder
http://www.niasnet.org/iran-history/a...

  • Farman-e-Kourosh also known as the ‘Cyrus the Great Cylinder’, is an artifact of the Persian Empire, consisting of the first declaration of human rights issued by the emperor Cyrus the Great inscribed in Babylonian (Akkadian) cuneiform on a clay cylinder.


おとなしくシリンダー
http://shimanami.wordpress.com/2011/0...

  • キュロスの円筒碑文はバビロンで使われていたアッカド語で書かれている。アケメネス朝ペルシアの研究を目指す人、めげないように。

補足:「アフロ・アジア語族」(セム・ハム語族)について

楔形文字を使う言語には,セム語族の死語が含まれる。

では,セム語族自体はどのような分類になっているか。

セム語族

  • アッカド語(楔形文字を利用)
  • ヘブライ語・アラム語(互いに酷似)
  • アラビア語・マルタ語(互いに酷似)
  • アムハラ語(エチオピアの公用語)
  • ウガリット語(本稿で取り上げた通り,楔形文字を利用)


ハム諸語(おもに北アフリカで話される言語の旧分類)

  • 古エジプト語(しかしセム語とも少し類似点があり,例えば語根は大抵3つの子音)
  • ハウサ語(Hausa。西アフリカのナイジェリアの言語)
  • ソマリ語(東アフリカのソマリアやソマリランドの言語)

現在の分類では「セム語族・ハム語族」と言わず,これらをまとめて「アフロ・アジア語族」と呼ばれる。

アフロ・アジア語族
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A...

  • アラビア半島を中心とする西アジアで話されるセム語派と、それに近縁な、北アフリカを中心に分布するハム諸語
  • アフロとはアフリカという意味のラテン語接頭辞
  • かつてセム・ハム語族と呼ばれた

※なお,ハム諸語の一例として「ハウサ語」というのが出てきたが,

下記の2つは別物なので注意。

  • Hausa (ハウサ語)
    • ナイジェリアの言語
    • アフロ・アジア語族のチャド語派に属する
  • Xhosa (ホサ語/コサ語)
    • 南アフリカ共和国の公用語
    • ニジェール・コンゴ語族の,バントゥー諸語に属する。ズールー語に似ている

ホサ語(コサ語)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B...


ハウサ語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8...