ペルシャ語文法の入門:動詞の活用
ペルシャ語の文法を学ぶシリーズ記事。
ペルシャ語文法はとても規則的で,覚える事が少ない。
(あえて言えば,文字の難しさが文法を学ぶ障壁になるかもしれない。)
動詞を覚える際は
- 不定形
- 現在語幹
の2つをセットで覚える。その他の形は,活用で作りだす。
例えば「する」という意味の動詞は
kardan, kon
というふうに辞書に載っており,その通り覚える。
kardanが不定形で,konが現在語幹だ。
この2つの形を覚えておけば,活用によって各種の時制や態に対応できる。
以下は動詞の活用のツリー。
たとえば,不定形からは過去語幹が作れて,過去語幹からは過去形や過去分詞が作れる。
- 不定形: 必ずdan,tanで終わる。
- 過去語幹: 不定形から-anを取り除く。
- 過去形: 過去語幹^+過去人称語尾
- 未完了過去形: mi+過去形
- 過去進行形
- 未完了過去形: mi+過去形
- 過去形(否定): na^+過去語幹+過去人称語尾
- 過去分詞: 過去語幹+e
- 現在完了形:
- 過去完了形:
- 受け身形
- 過去形: 過去語幹^+過去人称語尾
- 短い不定形: 不定形から-anを取り除く。過去語幹と同じ。
- 未来形
- 過去語幹: 不定形から-anを取り除く。
- 現在語幹: 不定形から規則的に作れる場合もある
- 現在形: mi^+現在語幹+現在人称語尾
- 現在形(否定): ne^mi+現在語幹+現在人称語尾
- 命令形: be^+現在語幹(+id,丁寧)
- 命令形(禁止): na^+現在語幹(+id,丁寧)
- 接続法現在形: be+現在語幹+現在人称語尾
- 接続法現在形: be+現在語幹+現在人称語尾
- 可能形(現在)
- 可能形(過去)
※ ^ はアクセントを表す。
上のツリーでは,人称語尾として
- 現在人称語尾
- 過去人称語尾
が出てくる。その語尾の一覧。
人称 | budanの 接尾形 | budanの 独立形 | budanの 否定形 | 過去形の 人称語尾 | 現在形の 人称語尾 |
---|---|---|---|---|---|
単1 | -am | hast-am | nist-am | -am | -am |
単2 | -i | hast-i | nist-i | -i | -i |
単3 | -ast | hast | nist | - | -ad |
複1 | -im | hast-im | nist-im | -im | -im |
複2 | -id | hast-id | nist-id | -id | -id |
複3 | -and | hast-and | nist-and | -and | -and |
3人称単数の微妙な違いだけ注意する。
上の表には,「ある」という基本的な動詞 budan, ba-shの活用も併せて載っている。
この動詞には接尾形と独立形がある。
接尾形は形容詞などの後にくっつく。
独立形のほうが意味が強い。
この語尾の一覧を見ると,とても興味深い。なぜかといえば
- ラテン/ロマンス諸語とは極めて似通っており
- アラビア語とはぜんぜん違っている
からだ。
ためしに,ラテン語の人称語尾の一例を見てみよう。
人称 | 第一〜第四変化動詞の 直説法現在の共通語尾 | sum「〜である」の 直説法現在 |
---|---|---|
単1 | -o | sum |
単2 | -s | es |
単3 | -t | est |
複1 | -mus | sumus |
複2 | -tis | estis |
複3 | -nt | sunt |
※第一〜第四については,幹母音(とその屈折)を除いた共通部分を抽出した。
ペルシャ語の語尾表と見比べれば,(詳しい言語学上の経緯は差し置いて,あるがままで)似てるなというのは一目瞭然だろう。
- 1人称単・複に現れるm
- 3人称単数に現れるst
- 2人称複数に現れるi+[d/s]
- 3人称複数に現れるn+[d/t]
一方,アラビア語の動詞の活用は下記のサイトを参照。
こちらはヘブライ語のように,動詞に男性形・女性形がある。
アラビア語の動詞完了形の活用について
アラビア語に比べると,ペルシャ語は簡単だ。
覚える事が圧倒的に少ないし,西欧諸語を学習した際の「勘」をある程度生かせる。
ただ,いかんせん情報が少ない。
アラビア語の学習書籍や学習サイトは結構あるが,ペルシャ語のものは少ない。
話者数がアラビア語に比べて少ないからだろうけども。
サンプル
かんたんな活用例。
「ペルシャ語を話す」という文を考えてみよう。
まず,名詞sohbat(会話)+動詞kardan(する)を組み合わせれば,「話す」という意味になる。
ここでは,名詞の部分を fa-rsi sohbat(ペルシャ語)に置き換える。
そして,ペルシャ語では 主語+補語+動詞 という語順だ。(英語のSVOと違って,日本語と同じくSOV)
主語はman(わたし)とshoma-(あなた)を知っていればいいだろう。
不定形
動詞や動作を見出しとして掲げる場合は不定形を使う。
fa-rsi sohbat kardan
ペルシャ語を話す(こと)
動詞が末尾に来るあたり,ドイツ語っぽい。
過去形
不定形から-anを取って過去語幹になり,そこに過去人称語尾を付ける。
man fa-rsi sohbat kardam.
私はペルシャ語を話した。
shoma- fa-rsi sohbat kardid.
あなたはペルシャ語を話しました。
shoma-は2人称の敬称だから,意味上は単数の場合であっても,活用語尾は2人称複数(-id)である。
否定はnaを付ける。
man fa-rsi sohbat na kardam.
私はペルシャ語を話さなかった。
未完了過去形
「〜していた」のように,過去の動作が一定期間続いたことを指す。
man fa-rsi sohbat mi kardam.
私はペルシャ語を話していた。
現在形でもmiが現れるが,miという語は全般的に未完了の印として働く。
miだけに「未(み)」完了なのだ。覚えやすい。
現在形
ここからは現在語幹を使う。
man fa-rsi sohbat mi konam.
私はペルシャ語を話す。
man fa-rsi sohbat nemi konam.
私はペルシャ語を話さない。
命令形
接続法の活用形を2人称に対して言うと,命令になる。
fa-rsi sohbat bekon.
ペルシャ語を話しなさい。
fa-rsi sohbat bekonid.
ペルシャ語を話してください。
禁止はbeがnaにかわる。
fa-rsi sohbat nakon.
ペルシャ語を話すな。
fa-rsi sohbat nakonid.
ペルシャ語を話さないでください。
以上。全体が極めて規則的。